廃線にだけ停車する透明列車「かげろう」、本当に見えないのに発車

全国の廃線跡ファンをざわつかせているのが、第三セクター「霞鉄道」が今月から運行を始めた透明列車「かげろう」だ。名前だけでなく車体もほぼ透明。車内のARゴーグルを装着すると、昭和の売店や手動改札、行先板がきらめく在りし日の駅が立ち上がる。現地は雑草、視界は全盛期。風景が二重に胸に刺さる。

停車駅はすべて「廃」。時刻表には薄墨の活字で「かつて13:14発」と注記され、鉄道ファンは「遅延の概念が哲学」と歓喜。切符は硬券だが、刻印は消しゴムはんこで、車掌がカタンと押すたびに昭和の埃が鼻に来る気がする仕様だ。

車内販売はラムネ、カール、そして何故か単一乾電池。理由を尋ねると車内放送が「旅には備えが肝要」とだけ告げ、チャイムはどこからともなく鳴るあのメロディ。記念スタンプは「途中下車印」ならぬ「途中回想印」で、押すと個人の思い出が一つだけ増えるという都市伝説まで生まれた。

初日の乗客代表は「駅がなくなっても、待ち合わせだけは遅れてくる」と語り、車内は拍手。透明のドアが閉まると、風だけが確かに動いた。見えないけれど確かに走る。そんな列車に、今も沿線の空き地で手を振る人がいる。