静寂すぎる花火大会、耳で味わう夏が秋田に到来

 

秋田県湯の鶴町で今週末、「静寂花火大会」が開催された。昼間に打ち上げ、音は出すが花は咲かない——というのが昨年までの仕様だったが、「見えないと寂しい」という声を受け、今年は逆に“見えるが鳴らない”無音花火に全面改修。町の予算と知恵を総動員し、音だけを置いてきた夏が、ついに視覚を取り戻した。

会場には、うちわと耳栓を両手に持つ観客が長蛇の列。「耳栓は記念品ですか?」と尋ねると、実行委員長は「使いません、気分です」と即答。合図の太鼓もゴム槌仕様で無音。拍手は手話で実施され、歓声は腹式呼吸のみという徹底ぶりだ。

青空にふわりと咲く花火。誰もが思わず「おお」と声を飲み込み、代わりに目で熱狂する。子どもは「あった!」と指差し、祖父は「静かだと夏が長い」と詠み、屋台の焼きそばもジュウ音を遠慮して常温で提供された。商工会は売上の静けさに軽く震えたが、「耳に優しい経済」を掲げて前向きだ。

帰り道、観客は一様に「耳が涼しい」と満足げ。秋田の短い夏、今年はそっと長引く予定である。