音だけ走る鉄道、始発前から終電の気配

空耳鉄道が本日、廃線跡に「音だけの路線」を開業した。列車は一本も走らないが、時刻表どおりに発車ベル、ドア閉め音、車輪のきしみ、風切り音、そしてなぜか駅弁売りの鈴の音までが流れる。改札で配られるのは記念切符ではなく「切符型耳栓」。使うと余計に聞こえるのが売りだ。

ホームでは「駆け込みはおやめください」という車掌の声が響くが、駆け込む対象は存在しない。利用客は白線の内側で目を閉じ、脳内で乗車。車窓は各自の記憶が担当する方式だ。監督官庁は新設の「幻聴輸送事業」として許可。輸送密度はデシベル毎分で算出するという。

沿線住民は「静かで助かる」と歓迎する一方、音だけ閉まる踏切に犬が困惑。録音派の鉄道ファンが三脚を立てるが、何も写らず、逆に集中できると好評だ。ダイヤの乱れは風向き次第。遅延証明書は消えるインクと駅の匂い付きで、提出先の人事が戸惑っている。

今後は寝台音列車も計画中。夜通しジョイント音で眠れる宿泊施設だという。反対派は「せめて時々は本当に走ってほしい」と主張。折衷案として、トンネル壁にトロッコの影だけを走らせる予定だ。